九州の11医療系大学大学院が、過去16年にわたる密接な連携を基盤とする拠点を形成し、第4期がん対策推進基本計画において求められる人材の育成の強化を実現する。各大学は当該地域のがん医療のニーズも考慮し、大学の規模や特徴に基づいた大学院プログラムを設置して、九州全体で各テーマの人材育成を目指す。テーマに関する専門講義に加え、大学病院の放射線治療、病理診断、がん疼痛緩和、小児がん医療、腫瘍内科等の各部門との強力な連携に基づく実地教育を行う。拠点内の合同講義・研修の実施とともに、e-ラーニング、遠隔通信を利用した広域にわたる大学間連携を実現し、離島僻地医療や多職種連携を含む教育体制を構築する。特に新規治療法開発やがん予防等の研究を推進する人材育成には、拠点内大学間のみならず、拠点間、国外の医療・研究教育機関と共同で取組み、我が国におけるがん専門医療人の養成に寄与する。
病理診断医や放射線治療医は都市圏に偏在しておりこれが課題と考えられる。九州地方は全国の離島・僻地の約半数を占めており、これらの専門家の不足は顕著であり、その結果がん診療への不利益がもたらされている。またこれまで痛みの治療・ケアや腫瘍循環器学などのがん関連学際領域の教育は必ずしも十分でなく、これらを担える人材も不足しており、現在の医療現場の課題への対応が困難である。そこで本プランではこれらの課題に対応する以下のプログラムを設ける。
病理診断については、九州大学にがんの病理診断医養成コースを、同じく九州大学に細胞検査士養成コースを設ける。放射線治療医の不足に対しては九州大学と久留米大学に放射線治療医を養成するコースを、宮崎大学には放射線治療についてのインテンシブコースを設ける。
痛みの治療・ケアにについては、琉球大学に医師を対象としたコース、看護師を対象としたコースを設定する。また九州大学において創薬を目指す薬剤師養成コースではがん疼痛緩和について研究を行うことを予定している。
また長崎大学では離島にある中核病院においてがん医療実習を行い、将来的に地域に定着する医療者の養成を目指す。同様に離島を多数有する地域にある琉球大学も長崎大学と連携し、離島におけるがん医療人材の育成を行いがん医療の偏在の解消を目指す。
各大学で養成コースの共通学習項目として、腫瘍循環器学、腫瘍腎臓病学、老年腫瘍学等を含む学際領域を取り入れることで、九州全体で課題を解決する人材の育成を推進する。
九州の各医療圏における専門人材不足を解決するために、当該地域の医療者を対象として九州の教育施設で養成することは、課題解決には極めて効率的であり、本プランで実施する意義が高い。
特に一般診療の地域偏在を解消するための枠組みを活用し、がん医療の偏在の解決を目指す長崎大学と、同様に離島を多数有する医療圏にある琉球大学が連携することの意義は大きい。この連携より得られる知見は、他の医療圏にも広く活用されることが期待される。
九州大学薬学府は疼痛について先進的研究を行なっており、薬学コースにおいて疼痛に関する創薬研究を行うことで、がん疼痛の治療に貢献できる。
九州大学では、がん薬物療法(腫瘍内科学)と循環器病学の両方の専門医資格を有する教員が腫瘍循環器学を指導している。またがん免疫療法における有害事象対策のための腎臓内科、膠原病内科、神経内科、糖尿病内分泌内科等とのチーム医療体制を全国に先駆けて構築しており、高度な学際領域の教育、研究に対応できる人材の育成、そしてその参加大学間での共有が可能である。
がん治療の進歩とともにがん患者の生命予後は向上した。一方で、がん経験者(サバイバー)では疾患自体と治療による身体的・精神的・社会的な負荷があり、小児がんを含むがんサバイバーには専門人材による長期にわたるケアが必要である。しかし九州においてこれらのケアを担う専門人材は未だ充足していない。また近年、がんゲノム検査が実臨床で拡大したことにより、がんプレディスポジションを有する患者や血縁未発症者が顕在化し、保有する遺伝子型により異なる様々ながんリスクに対してスクリーニングを担う人材も更に必要となってきた。そこで本プランではこれらの課題に対応する以下のプログラムを設ける。
がんサバイバーの苦痛に対応できるがん専門医療人を養成するコースを福岡大学に、多職種を対象としたインテンシブコースを福岡大学と大分大学に設ける。がん治療中の患者、およびがんサバイバーの就労問題は社会的な大きな課題であり、それに対して産業医科大学においてがん治療と就労の両立を支援する医師を養成するコースを設ける。
遺伝性腫瘍、二次がんを含むがん予防・サーベイランス・遺伝カウンセリングを担う人材を養成するコースを長崎大学と鹿児島大学に設ける。上述のがんサバイバーへの負荷は、特に小児がんにおいて顕著であり、成長への影響を評価し、二次がんへの対応を行うと共に、豊富な医療ビッグデータを利用したがん予防研究を包括的に実施できる専門人材の育成が急務である。そのため、主に小児がんを対象としたがん予防とプレジジョン医療を担う人材を養成するコースを九州大学に設ける。
産業医科大学には、医療機関、職場と連携して、患者の治療継続と就労の両立を支援する支援機関として両立支援科が設置されており、そのノウハウが蓄積されている。同大学のプログラムでは両立支援科における実地指導も含まれ、がん患者、がんサバイバーの就労問題の解決に寄与する人材の育成が期待される。
九州大学病院は小児がん拠点病院に指定されており、九州各地からの小児がん患者が多く集まる。成人よりも遺伝的要因の強い小児がん症例が多く集積されるため、がんサバイバーおよび血縁未発症者を対象としたがん予防についての専門知識を持つ人材育成に有利である。また同病院はがんゲノム医療中核拠点病院として九州の各大学とのがんゲノム医療に関する教育、診療、研究の連携関係も構築しており、マルチオミクスデータと臨床情報を紐付けた医療ビッグデータに基づいた、遺伝性腫瘍の予防に資する人材の教育も効率よく実施できる。
上記の教育内容はコース設置校に限定されるものではなく、本プラン参加校間の連携体制を利用した人材育成が可能である。
近年、がん治療のバイオマーカーが多数見出され、これを標的とした治療が次々と臨床応用された結果、がん治療は著しく複雑化している。がんの個別化医療の推進には、急速に集積する国内外の研究成果を理解して診療に生かすだけでなく、自ら新規治療開発に寄与する人材の育成がさらに求められている。また、免疫チェックポイント阻害療法やCAR–T療法をはじめとしたがん免疫療法は、多くのがん種で臨床効果を示し標準療法に組み込まれている。これを適切に実施するには、多彩な免疫関連有害事象に対応できる人材育成が必要である。そこで本プランではこれらの課題に対応する以下のプログラムを設ける。
九州大学、産業医科大学、佐賀大学、長崎大学、熊本大学、大分大学、鹿児島大学の各校において、医師を対象として個別化医療・新規治療開発のための個別化医療を推進するためのコースを設置し、臨床情報・ゲノムデータ解析や、バイオマーカー・新規治療標的の探索を実施する人材を養成する。これらのコースではがん免疫療法を体系的に習得できる講義、演習を組み込む。薬剤師を対象としたがん創薬研究薬学コースを九州大学に設置し、新規治療標的の選定とそれに対する薬剤について腫瘍学的・薬学的に評価できる薬学研究者・薬剤師の養成を目指す。さらには、薬物療法に加えて放射線治療においても新たな治療法の開発を目指し、医学物理士等を対象としたデータサイエンティストコースを九州大学に設ける。
九州大学に設置されたプレシジョン医療学講座は、ゲノム情報に基づいたがん予防・治療法の開発を専門としており、同講座と拠点内とで連携を行うことで新たな個別化医療の実現を目指す。
鹿児島大学では工学部、経済学部と協力し、人工知能や医療経済など多角的ながん医療に対応できる人材の養成を目指す独創的な取組を計画している。
さらに幅広い研究開発人材の育成のために拠点外との連携は不可欠である、国内においては北海道・東北・北陸のがんプロ養成拠点との拠点間合同研修事業を行う予定であり、互いの成果について情報交換や議論をする機会を作る。国外においては、がん医療の集約化の進む韓国や、ストックホルムの九州大学海外事務所などを介した欧州医療・研究施設などとの交流が可能であり、これらを通して人材育成のみならず共同研究や技術交流を行える素地がある。
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用