第1~3期がんプロで育成された人材が事業の中心を担い、5大学9学部が連携してがん治療・予防の進歩に対応出来る人材を養成する仕組みの確立を目的とする。ニーズを基にタスクフォース(TF)を形成し、事務局が統括する。「TF1:医療現場」では緩和ケア医や病理医、放射線治療医の育成に加え、大学間連携の免疫関連有害事象Board meetingを通じて腫瘍循環器/腎臓病医等にも実践的な診療経験の場を提供する。「TF2:予防医療」では遺伝カウンセラー育成に加え、がんサバイバーシップ支援ができる専門看護師育成、近大情報学部との連携によるバイオインフォマティシャンの育成や、大阪公立大学保有の1万例の健診データを利用した先制医療を担う人材養成を行う。
「TF3:研究開発」では臨床研究中核病院である神戸大学を中心に、個別化医療に繋がる研究開発の基盤となる医師・CRC等に加え、免疫療法等、高度ながん医療研究開発を主導する医療者の育成システムを構築する。
課題:痛みのケアを行う緩和ケア医や認定看護師に加え核医学や粒子線に精通する放射線治療医や、分子病理の知識を有する病理診断医の絶対数の不足が課題である。加えて免疫療法など新たな治療手段による副作用等、循環器疾患、腎疾患、神経疾患などがん及びがん治療に伴う他疾患への対応が求められる。
対応:本テーマに関してはTF1(医療現場)として近畿大学を中心に現場で必要とされる人材育成を行う。
地域で活躍する病理診断医や放射線治療医が、分子病理診断(神戸大学地域定着型病理診断医育成コース、近畿大学分子腫瘍病理学コース)や核医学(近畿大学放射線腫瘍学先端研究者養成コース)、粒子線治療(神戸大学地域定着型放射線治療医育成コース、医学物理スペシャリスト養成コース)も含む高度な技術を必要とする放射線治療技術に対する知識、技能を効率よく身につけるためにも、社会人入学により地域の施設でのがん診療を継続しながらも指導が受けられるような病理診断医、放射線治療医養成課程を開講する。また腫瘍内科学研修において診断から看取りまでの実際のがん患者に対する包括的な診療を経験することで、各専門医がPatient Journeyの中での自らの役割を考える機会を提供する。神戸大学の多職種・他分野・地域をつなぐ緩和医療専門医育成コースでは、医療用麻薬などの薬物療法のみならず、痛みをはじめとした症状緩和治療に必要な放射線治療・神経ブロック・IVRの有用性の理解と適応判断ができ、周辺リソースと連携した地域における症状緩和治療提供体制の構築ができるような教育を行う。関西医科大学の特定集団特化型緩和医療コースでは、肉体的な痛みに加えて心の痛みにも着目し、心療内科医や臨床心理士との医心連携による緩和ケアに取り組む。インテンシブコースとして神戸大学では腫瘍循環器学を学ぶ機会を実地診療に従事する循環器科医や腫瘍治療医に提供する他に、TF3に詳述する大学、施設連携の免疫関連有害事象Board meetingに腫瘍循環器医や腎臓病医、神経内科医などの医師が参画することで多施設による症例経験の集積を行い、がん学際領域における臨床および研究の活性化を目指す。
核医学は近畿大学放射線診療部にて、粒子線は神戸大学の粒子線治療施設(兵庫県立粒子線医療センターや神戸陽子線センター)などの連携施設にて既に診療や研究の経験があるため実地的な教育が可能である。加えて医学物理士に関してはがんプロ3期の間に18名の修了者を地域の拠点病院に輩出するなど既に教育体制を確立している。また、近畿大学病院、神戸大学医学部附属病院共にがんゲノム医療拠点病院として病理医がエキスパートパネルに関わるなど分子病理医の育成の下地は整っている。本事業には大学教育における中心を既に成しているがん診療の縦糸となる臓器専門的診療科のみならず、がんに特化した臓器横断的(横糸)な診療科として腫瘍内科を標榜し実際に臓器横断的に臨床や研究を行う講座を有する複数の大学が参加していることが人材育成における大きな強みである。放射線治療医や病理医などのがん診療の基盤となる診療科と、最前線にて診療を行う内科、外科そして緩和ケア科、麻酔科などのがん疼痛対応に特化した専門科の人材ががんプロの中で縦糸と横糸として絡み合うことで強固ながん診療の基盤を地域に提供する。実際に免疫療法に対する有害事象のマネジメントには複数の診療科や多職種が関わる必要があり、臓器横断的診療科が基盤となりマネジメントを行うことが強みとなる。
課題:蓄積されたビッグデータの有効活用を基盤としたがん予防医療の発展が課題であり、遺伝子解析や医用画像を含む臨床データの分析が可能な人材の育成および連携が必要である。また、疾患高リスク未発症者の適切な受け皿や、がんサバイバーを地域のチーム医療で支えることを可能とする人材養成が必要である。
対応策:本事業ではTF2(予防医療)として、大阪公立大学をリーダー校として課題に取り組む。
大阪公立大学の先端予防医療学教室およびMedCity21内の先端医療部附属クリニックではがんやがん発症リスクとなる生活習慣病(心臓病、糖尿病、慢性腎臓疾患、脂肪肝等)の早期発見・早期治療の実践や未病段階での早期介入を目的に健診事業をしている。第4期がんプロ事業におけるTF2では健診事業から得られる健常・未病・有病状態の連続的かつ網羅的なビッグデータ(臨床情報、血液検体等)を集積したバイオバンクを構築し、大阪公立大学内の医療ビッグデータ専門医養成コースと共同して、効率化・個別化されたがん予防医療の実践を行う人材育成を行う。 また、近畿大学理工学部・情報学部においてもバイオインフォマティシャン等のデータ解析専門家育成コースを令和7年以降に開設する。学生に対する教育カリキュラムにがんに関する講義・研修を盛り込み、「がんに強いデータ分析のスペシャリスト」を持続的に養成することを可能にする。 大阪公立大学大学院看護学研究科では、病院および地域のチーム医療における「看護師の調整力」を高めるカリキュラムを策定し、アサーション等のコミュニケーションスキルを取り入れ、がんサバイバーの生活における課題を解決できる相談支援機能に長けた専門看護師を育成する。また神戸大学大学院保健学研究科では、がん看護に携わる看護師として、医療機関と地域の連携、チーム医療に重点をおき、治療後のフォローアップを受ける成人・小児がんサバイバーへの高度看護支援やその看護の開発研究ができる人材を育成する。近畿大学病院は日本病態栄養学会の実地修練施設に認定されており、がんプロ卒業生とともに「がん病態栄養専門管理栄養士」の育成を進める予定である。さらには、ピアサポーターの養成を行い、医療者だけではない、多角的ながんサバイバーへのケアが可能になると期待される。神戸大学においては、がんリハビリテーションの臨床と研究を積極的に行っており、それを基盤にがんリハビリテーションに特化したリハビリテーションセラピストを対象とする大学院コースを開講する。
TF2のリーダー校である大阪公立大学の先端予防学教室では既に、先制的予防医療の実践、未病データの蓄積と解析による新たな研究成果の創出と国際競争を勝ち抜く研究者の人材育成を行っている。加えてMedCity21に2次利用可能な1万6千件を超える健診データを有しており、がんプロ内事業内の連携において他大学のデータ解析専門部門と共同した先制医療の研究を行うことが可能である。また、近畿大学では理工学部において過去のがんプロプランより遺伝カウンセラーを多数育成した実績を有しており(第3期にて60名の遺伝カウンセラーが大学院を修了)、関西地区一円の拠点病院のがんゲノム医療に貢献している。神戸大学医学部附属病院でもがんリハビリテーションインテンシブコースを開講し多くの理学療法士を受け入れてきた実績がある。さらに大阪公立大学大学院看護学研究科では、がんサバイバーの就労支援やAYA世代・高齢者など様々なライフステージにあるサバイバーに対する看護研究を行っており、意思決定支援および緩和ケアを実践できるがん看護専門看護師61名を養成してきた実績を持つ。また神戸大学大学院保健学研究科では小児がん・AYA・成人がんのサバイバーの看護支援に関する研究してきた実績があり、その特色として看護学、病態解析学、リハビリテーション科学、パブリックヘルス領域の教員が連携し、多職種連携・チーム医療を重視したプログラムを展開している。
課題:がんゲノムプロファイリング検査を受けた患者が実際に治療に結び付く例は未だ少ない。また免疫チェックポイント阻害薬やCAR-Tなどの免疫療法が臨床試験において有効性を示しているが、実地臨床で使用するための新しいタイプの副作用に対応出来る専門の医師や薬剤師が不足している。
対応:本テーマに対してTF3(研究開発)として、臨床研究中核病院である神戸大学医学部医学部附属病院を有する神戸大学を中心に本事業で対応する。具体的には、希少がんや稀な遺伝子異常を有するがんを中心としたアンメットメディカルニーズに対応する医師主導治験や特定臨床研究を実施し、特にがんゲノムプロファイリングの結果で何かしらの遺伝子異常を認めたがん患者へ治療薬を提供する道筋を作ることを目標とする。またそのためには研究の基盤整備も重要であり、神戸大学では個別化医療開発に重点を置いた大学院プログラムを腫瘍・血液内科、小児科大学院コースにて提供する。また具体的な薬剤の創出に関して、関西医科大学では創薬研究コースを開講し、核酸医薬創出や疾患特異的バイオマーカーの探索などを行える人材を大学内の各講座が連携して導出する講座を開講する。
医学部内に設置する薬剤師に対する大学院コース(近畿大学)や医療者全般に対する通年のインテンシブコース(神戸大学)を開設し、がん薬物療法の臨床研究・開発の主導者としてのon the jobtrainingと、臨床研究基盤の中核的人材を目指した臨床研究による学位の取得を可能とする。卒業生には臨床研究の基盤となる、がん薬物療法に関する臨床試験や研究を支援できる人材となることが期待される。特に免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T等の免疫療法に対する免疫関連有害事象(irAE)の中には頻度が稀で臨床場面で経験し学ぶことや、研究対象とすることが困難なものがある。本事業による大学間・地域施設間連携によるirAEに対するBoard meetingを定期的かつ持続的に開催する。この先進的な取り組みは近畿大学で5年以上(合計50回以上)にわたって取り組んできたが、それを複数の施設に拡大することで、①地域におけるirAE対応の均てん化②症例集積による経験蓄積③ゲノム研究や免疫学研究における大学の研究者も参画する。またこの仕組みから複数施設における免疫関連有害事象発症例の臨床情報と検体を集約し、免疫有害事象データバンキングとして免疫療法有害事象に対する研究の活性化を目指す。
各連携大学では、新規治療法の開発を目指した臨床試験を精力的に実施し、多施設共同の医師主導治験を主導してきた。近畿大学医学部腫瘍内科では神戸大学を含む多施設にて、原発不明がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の医師主導治験(NivoCUP試験)を実施し、世界初となる原発不明がんに対するニボルマブの適応承認取得に貢献した実績を有する。更に、患者会との連携により実際に治療を受ける患者のニーズに沿ったわが国初の患者提案型医師主導治験であるT790M陰性EGFR陽性非小細胞肺癌に対する分子標的治療薬オシメルチニブの有効性を検討するKISEKI試験を完遂した。「臨床研究中核病院」の指定を受けている神戸大学医学部附属病院では、臨床研究推進センターが中心となって、日本発の革新的な医薬品や医療機器の開発・展開に供する臨床研究や治験のみならず、研究者がクリニカルクエスチョンや研究アイデアを最も効率的かつ有効な形で新しいエビデンスや製品に結実できるように支援する体制を構築している。更に、全連携大学が、わが国有数の多施設共同臨床試験グループである「西日本がん研究機構WJOG」に加盟し、若手医師を中心として、多くの臨床試験に参画することによって、新規治療法の開発に携わっていることも本拠点の大きな強みであると考える。また、がんゲノム医療中核病院として、西日本最多の症例数を有する小児がん拠点病院である兵庫こども病院と連携してがんゲノム医療を実施しており、小児がんに対する個別化医療の臨床開発の人材養成も可能である。一方、近畿大学病院では、輸血・細胞治療センター、再生医療部(CPC)等が連携して、CAR-T療法を円滑かつ効率的に実施しており、人材養成基盤を構築している。
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用