取組概要地域に生き未来に繋ぐ高度がん医療人の養成

事業の概要

第4期がんプロに課せられた各テーマに対応するために、多くの医療職やがん患者、基礎研究者、統計家などの力を集結させる。大阪大学拠点グループとして共に1-3期にがんプロ事業を行なってきた京都府立医科大学、和歌山県立医科大学、奈良県立医科大学、兵庫県立大学に加えて、高齢化したがん患者のリハビリテーションに欠かせない理学療法士・作業療法士や疼痛緩和の一翼を担う鍼灸の専門医療職を養成する森ノ宮医療大学を新たに迎えて6大学で本事業に取り組む。各大学の特色や強みを十分に生かし、全50コース(正規課程コース41、インテンシブコース9)を開講することで全ての課題に重層的に取り組み、力強く対処するところが本事業の特色である。拠点内での連携を密にして高いレベルでのがん教育の均てん化を図り、全国e-ラーニングを活用し、事業の成果を一層広く普及させることで、地域に生き未来に繋ぐ高度に専門的ながん医療人を養成する。

テーマごとの課題と対応策

テーマ① がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成

課題・対応策

①がん患者の併存疾病に対して大阪大学では腫瘍循環器学、腫瘍腎臓病学、老年腫瘍学、口腔ケア管理の4つの正規課程コースを新設して対応する。同循環器内科は2019年に附属病院で開設された緩和医療センターの三つの緩和ケアチーム(がん、心不全、小児がん)に参画しており、がん患者の痛みや精神的・身体的な苦痛に関する学びの蓄積がある。口腔ケアコースでは病院内に設置された歯科治療室での実習を通じてがん患者特有の歯科治療の問題点を学ぶことができる。和歌山県立医科大学の緩和医療専門医養成コースでは、講義内容に老年学・循環器病学・腎臓内科学を取り入れた教育計画を予定している。

②がん患者の終末期医療に対して痛み・精神的な問題、在宅医療に関する課題などに、多職種がチームとなって緩和医療に関する実践的な教育を行い、種々の職種の人材養成に取り組む。そのために5大学(OKWHM)でがん緩和ケアコースを、4大学(OKWH)でがん看護専門看護師養成コースを設置しており充実した教育が展開できる(大阪大学をO、京都府立医科大学をK、和歌山県立医科大学をW、奈良県立医科大学をN、兵庫県立大学をH、森ノ宮医療大学をMと称した)。森ノ宮医療大学では、がんに精通した理学療法士や作業療法士、鍼灸師を養成する。高齢のがん患者では、加齢に加え、担がん状態、手術侵襲、抗がん剤の副作用による二次的な筋肉量の減少(サルコペニア)により患者のQOLが阻害される。またがん対策推進基本計画にも「がんのリハビリテーション」が分野別施策の一つとして明記されており、がん患者の虚弱(フレイル)を予防するには、がん患者のためのリハビリテーションの充実が重要である。また鍼灸は、がん性疼痛に対する鎮痛薬の投与量、回数を減らすことに貢献することから、森ノ宮医療大学はこれまで阪大拠点に欠けていた教育領域を強化する。

③近畿圏のがん診療連携拠点病院は、都市中心部では放射線治療医を配置できているが、周辺部の府・県境では未だ不足しており、3大学(O,K,N)で放射線治療専門医を養成する。奈良県立医科大学では、強度変調放射線治療、定位放射線治療などの放射線治療に関する優れた診療技術について高度な教育が可能なこと、陽子線治療や核医学治療の指導に秀でたスタッフがいることにより、地域に根ざした総合的な放射線治療専門医を育成できる。京都府立医科大学では敷地内に陽子線治療施設を有し、陽子線治療を実践的に学ぶことができる。また、全国に先駆けて画像誘導小線源治療を用いた低侵襲緩和放射線治療も導入している。さらに北部医療センターに対しては遠隔治療計画を行っており、地域支援の実際を教育する。がん専門知識を有した病理医不足に対しては和歌山県立医科大学では新たに病理診断科育成コースを開設し、正確な病理診断能力に加えて、先端医学に精通し高度な基礎研究遂行能力を備えた、将来の病理診断学を切り拓くことが出来る人材を育成する。大阪大学でも病理専門医養成コースを設置するが、現在、病理学の教授職が空席の大学では新教授の着任を待ってコースの追加を検討する。

テーマに関する強み

京都府立医科大学は附属病院に緩和ケア病棟が併設されている稀少な大学であり、専門的がん疼痛治療の実践と緩和ケア体制構築の要となる緩和ケア専門医育成コースの教員が緩和ケア病棟における診療教育にあたり、コース生は終末期患者のケア・治療の実態についての豊富な経験例を学ぶことができる。さらに、本コースでは、緩和ケア病棟患者の疼痛マネジメントを含めた、がん患者の疼痛患者管理について、オン・ザ・ジョブ・トレーニングを含めた指導が可能である。同大学の高度実践がん看護専門看護師コース(ペインマネジメントに強いがん看護専門看護師コース)では、がん性疼痛看護のスペシャリストが教育を担当し、疼痛・緩和医療学講座との連携のもと、また、がんエンド・オブ・ライフケアを専門とする教員による指導によって、緩和ケア病棟や地域の在宅ホスピスなど専門的緩和ケアを提供する場で実践的な実習ができる点が強みである。大阪大学では大学病院のみならず地域の緩和ケア病棟・在宅療養支援診療所と連携して、がん患者と接する実習を増やすよう新たに地域連携実習セミナーを設置し、患者を中心としたチーム医療の実際を現場で学ぶ経験を積むことで高い教育効果を得ることができる。和歌山県立医科大学の緩和医療コースでは、指導者は全員ペインクリニック学会認定医であり各種神経ブロックの適応・手技・管理を習得できる。また同大学のがんリハビリテーションインテンシブコースでは、3名のがん看護専門看護師によって、がん患者がセルフケアを高め継続してリハビリに取り組むことを支援する人材育成を目指し、患者のスピリチュアルな全人的苦痛を踏まえたエビデンスを収集・整理し、実践での問題・課題を焦点化する力を涵養する十分な指導体制を整えている。

チーム医療の実践という観点からは、奈良・総合腫瘍医養成コースプログラムでは、複数診療科、多職種のスタッフから構成されるキャンサーボードやカンファレンスによって、患者の全体像を把握でき、がん治療の推進役となって中心的な役割を果たす人材を養成するプログラムとなっている。放射線治療医と共に、新しい放射線治療法に精通した医学物理士の養成は、必須である。3大学(OKN)では陽子線治療、重粒子線治療、ホウ素中性子捕捉療法、更には核医学治療である標的アルファ線治療といった最先端の高LET放射線治療法に関して、総合的に教育することができることが強みである。

和歌山県立医科大学に新設される病理診断科育成コースでは、病理所見から細胞増殖性の有無、強弱、規則性といった指標を採取し、指導医と受講者が一対一で教育する。一般的に病理診断は主観的な側面が強く、この様な客観的で系統だった病理診断の指導法は先進的かつ科学的である。病理医の不足地域では、認定病理検査技師がテレパソロジーで病理標本データを送信することができる。大阪大学はその前段階として、病理・細胞診断で高い技能を備えた細胞検査士を多数養成してきた実績があり、「地域の病理医不足を補う病理・細胞診断コース」によって病理医不足を側面からサポートすることができる。

テーマ②がん予防の推進を行う人材養成

課題・対応策

医療ビッグデータに基づく効率的かつ個別化されたがん予防を推進できる人材養成が必要である。これに対応するために3校(OWH)に新規のコースを開講する。大阪大学では都道府県がん診療連携拠点病院である大阪国際がんセンターの疫学部門との連携を通じて医療ビッグデータを共同で解析する準備ができており、次世代のビッグデータ解析の担い手となる医療統計学を専門とする若手統計家も参画して新しくがん予防コースを開講する。未発症者の先制医療の教育に対しては既に始まっている乳腺や卵巣の予防的切除を中心とした教育を行うため、大阪大学の婦人科、乳腺外科で新規コースを開設する。現在カウンセラー教育を受けている学生が、今期の課題に挙げられた現在のがん医療を取り巻く諸問題について広く学ぶことは将来現場に立った時に大いに役立つと考えられることから、大阪大学で従来より存在する遺伝カウンセラーコースの中にインテンシブコースを設置する。

がんサバイバーについての課題については3大学(OWH)のがん看護専門看護師コースが対応する準備がある。小児がん領域では治療法の進歩によってがんを克服して成人となるケースが増えてきている一方で、晩期合併症による健康問題や、就職、結婚などの心理社会的問題等種々の問題に直面していることから、大阪大学では小児科血液がんグループが正規課程コースを開設し、がんサバイバーの諸問題に対応できる医師を養成する。また大阪国際がんセンターと連携してがんサバイバー参加型のインテンシブコースを開講する。

テーマに関する強み

兵庫県立大学の高度実践看護コースは、第3期がんプロの事後評価でも高い評価を受けており、臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍コーディネーター、がんゲノム医療に携わるがん看護専門看護師等と連携した教育体制は大きな強みとなっている。すなわち、ヒトゲノムの構造と機能、がんの分子生物学、遺伝医学(がんゲノム解析法、遺伝学的検査、個別化医療への応用)、腫瘍遺伝学(がんの遺伝学の基礎知識、ヒトの遺伝学的多様性、遺伝性腫瘍、リスクアセスメント、遺伝性腫瘍、がんゲノム医療と二次的所見)についての十分な知識を習得させた上で、高度実践看護師としてサーベイランス、2次がんの予防、遺伝カウンセリング、心理社会的支援方法などに関わる手法について教育する。さらに医療ビッグデータの特徴、データ分析、データヘルス計画、評価指標について理解させ、ポピュレーションアプローチの手法を教育する。その知識をもとに、看護の視点からがん予防および個別化医療に繋がる要素を抽出し、がん高度実践看護師としての役割開発に繋げるという高度かつ先進的な取り組みが特長である。

和歌山県立医科大学では、医療ビッグデータに関するインテンシブコースとしてがん医療ビッグデータ利活用ベーシックコースを開設する。がん領域におけるビッグデータを用いた疾病予防を研究するための道標として、医療統計学、がん疫学、およびレギュレーションに関する知識を習得させる。医療統計学では、生存時間解析を中心に座学だけでなく、プログラミングについても学ぶ。さらに,レギュラトリーサイエンスの専門家による講義を通じて受講者に高度な知識を与え、この分野での人材育成を推進する。

大阪大学では、日本遺伝カウンセリング学会主導ですでに遺伝カウンセラーコースが出来ており、毎年数名の遺伝カウンセラーを輩出しており、この分野の教育体制に強みがある。その中でも特にがんについての遺伝カウンセリングに興味のある学生をインテンシブコースで教育する。

本拠点事業では連携大学と合同でがんサバイバーとの患者交流会を毎年開催しており、がんサバイバーが感じている不安や、医療への要望などの意見を直接聞く機会があることは強みとなる。大阪国際がんセンターとも連携して医療者とがん経験者が一堂に会して学ぶことで、お互いの理解や思考過程が把握できるといった実践的な教育が可能となる。大阪大学医学部附属病院小児科では、他施設に先駆けて2005年から小児がん領域のサバイバーに特化した長期フォローアップ外来を毎週行ってきた。そこでは認定看護師ソーシャルワーク修士と連携しサバイバーに対する質の高いフォローアップを行っており、その蓄積が大きな強みとなっている。

テーマ③新たな治療法を開発できる人材の養成

課題・対応策

遺伝子パネル検査によって治療薬を投与した患者数の割合は8.1%にとどまっており、新規原因遺伝子変異の同定や新たな治療法を開発できる人材の養成が急がれる。一方、近年、急速な進歩を遂げた腫瘍免疫の理解は必須のものとなっており、CAR-T 療法や免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん治療に精通した薬剤師の養成や、新たな治療法を開発できる研究者の養成は急務である。4校(OKWN)において新規がん治療開発に向けて11の正規課程コースが設定されている。

京都府立医科大学の小児新規免疫療法開発者育成コースでは、小児がんの多彩な病態を理解し、標的となる癌腫に応じたCAR-T腫瘍溶解性ウイルス療法のデザインから、作製、治療効果の評価に至るまで新規免疫療法の開発を担う人材の育成が可能である。小児血液・がん指導医、血液指導医、癌治療認定機構指導医、造血・細胞療法認定医といった臨床および研究のプロフェッショナルが、直接学生の指導に当たり、自らアイデアを出し、形にできる次世代の人材を育成する。

大阪大学大学院薬学研究科では、既存の基礎研究者コースと臨床系薬剤師コースのそれぞれに、現在のがん医療を取り巻く諸問題や免疫療法を含めたがんの最新医療についての理解を深め、広い見識を持つことを目的としたインテンシブコースを設置する。

テーマに関する強み

この分野に関して本拠点は大きな強みがある。すなわち和歌山県立医科大学では次世代医療研究センターやバイオメディカルサイエンスセンターを有し、従来から新薬開発や臨床治験が盛んに行われている。同大学の薬物療法専門医養成コースでは、進行がんに対する新たな治療法の開発を担う人材を育成するために、がん新薬早期開発に関する特別講義演習や WMU Phase 1 OJT(On the JobTraining)を取り入れ、新薬早期開発治験分担医師としての研修やがんゲノム医療部門における個別化医療に関する研修を含めた実践的な教育プログラムが特長である。また西日本では同大学附属病院が唯一の治験実施施設である複数の国際共同ファーストインマン第Ⅰ相治験への出口戦略として、がんゲノム個別化医療の適用率をあげる研究および恒常的に海外の若手研究者との国際連携を担保する教育システムに大きな強みを有している。

京都府立医科大学の腫瘍内科先端研究者育成コースではゲノム情報を個別化薬物療法に応用するために、C-CATに登録されているゲノム情報を利用して膵臓がん希少組織型の解析を行い、薬物療法の効果との関連を明らかにしてきた。小児がんでは横紋筋肉腫を中心に難治がんの詳細なゲノム解析を実施している。保健・予防医学教室ではがん予防剤の実用化に向けた臨床介入試験を実施しているが、ゲノム情報に基づいた新しいがんの予防法あるいは前がん病変検査・治療法の開発にも取り組んでおり、将来的にがん予防外来の開設を目指している。

奈良県立医科大学も今期より新たにがん薬物治療専門医・研究者養成コースを開設する。がんゲノム医療・腫瘍内科学講座の新設およびがんゲノム医療拠点病院への昇格で、臓器横断的ながん薬物療法分野の臨床的知識・技術の習得によるがん薬物療法専門医の育成のみならず、トランスレーショナル研究やアンメットニーズに対する臨床試験も遂行できる研究者の育成が本格的に実施可能となった。

大阪大学ではがんを扱う全ての臨床教室が本事業に参画するので、新薬が生まれる可能性は高く、とりわけ血液内科や呼吸器・免疫内科は免疫研究の領域で世界トップクラスの業績を数多く生み出しており、がん免疫に関する革新的な研究成果が期待される。

本拠点では、個別化医療に対応できるがん看護専門看護師の養成にも力を入れており、兵庫県立大学の高度実践看護コースでは、先端医療工学研究所と連携して、データマネジメントおよびデータから現象を可視化するためのアプローチ手法を学ぶユニークな独自の教育プログラムを導入している。また和歌山県立医科大学のがん看護専門看護師養成コースではエキスパートパネルへの参加を必須とし、その他専門職の役割を学ぶ場を設け、エビデンスに基づいた思考を培い、新しい医療ニーズに即した体制を整えている。

出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/)
「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン(令和5年度選定)」を加工して使用